大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜家庭裁判所 昭和50年(少ハ)11号 決定 1975年10月29日

少年 D・J(昭三一・三・二〇生)

主文

少年を昭和五二年三月一九日まで特別少年院に戻して収容する。

理由

本件申請の要旨は、「少年は昭和四七年七月二四日横浜家庭裁判所において窃盗保護事件により中等少年院送致決定を受け、喜連川少年院に収容されて矯正教育を受け、昭和四八年一二月二一日同院を仮退院し、以後横浜保護観察所の保護観察中の者であるが、法定および特別遵守事項を守らず、内妻との放縦な生活に流れて正業に安定せず、徒食生活や遊興的生活態度に埋没して改善更生の意欲が認められない状況であり、保護者らも度重なる少年からの金員強要に畏怖している実情にあつて、保護観察によつて少年を改善更生させることはもはや著るしく困難であるから、この際再び少年に収容矯正教育を施しあらためて予後の環境調整を検討すべきものと考え、犯罪者予防更生法第四三条第一項に基き少年に対し少年院への戻し収容決定を求める。」というにある。

よつて審按するに、記録添付の各質問調書謄本および仮退院許可決定書抄本ならびに家庭裁判所調査官森久保卓の調査報告書のほか少年調査記録、審判の結果を総合すると、

少年は昭和四七年七月二四日当裁判所において窃盗保護事件により中等少年院送致決定を受け喜連川少年院に収容され、矯正教育を受けていたこと、

昭和四八年一二月二一日同少年院から仮退院を許され本籍地の父母のもとに帰住したこと、

横浜保護観察所において、同日、法定遵守事項のほか特別遵守事項として、悪友と交際せず家に落着いて堅実な生活を送ること、定職に就いて真面目に働くこと、盗みなど人の迷惑になるようなことはしないこと等について説明指示を受けたこと、

少年はその後、○○造船所内の○○組の塗装工として約六ヵ月、さらに昭和四九年秋ごろから塗装請負を自営したが失敗、同五〇年三月ごろからは横浜市中区○○町所在の○○船舶の人夫となるなどなんとか就労を維持していたが、仮退院後約一年半経過した昭和五〇年六月ごろからは徒食状態となつていたこと、

その間、昭和四九年三月ごろからは、保護観察中の○石○重との交際を始め、同年七月ごろから肩書アパートで同女との同棲生活に入つたが堅実なものではなかつたこと、

昭和五〇年六月以降は勤労意欲も示さず、少年同様少年院仮退院中の○下○一や暴力組織と目されている○○会○○組々員と称する通称「○し○り」なる者ほか不良仲間と徒遊し、飲酒遊興に耽り、自宅アパートを溜り場として怠惰放縦な生活を続け、生活費、遊興費に窮すると父母から金員を強要したり、友人や町の金融業者などから借金を重ね、父母らの法意には暴言をもつて応ずる状況になつていたこと、

とくに、昭和五〇年九月下旬ごろ、前述の「○し○り」なる者から借り入れた三〇万円の返済に窮し、自己の父母らから二〇万円、同棲中の○重の母から一〇万円援助を受けて急場をしのいだのに拘わらず、旬日を経ずして父母に生活費を要求して拒否され、刃物まで持出して父を脅迫する仕末であつたこと、

その後、担当観察官らの調整により、少年は○重の母のもとに身を寄せることとなり、ホテルのボーイとして就職口まで斡旋を受けながら、僅か一日勤めただけで一〇月四日以降ここを離脱し、○重とともにホテル、族館などを泊り歩き、再び保護者に金員を強要したり、担当保護司から四万円の貸与をうけながらその後も全く働かず、更生のためと称してさらに父を強要して金員を出させたり、乗りつけたタクシー代を支払わせるといつた行状が跡を絶たなかつたこと、

などの諸事実が明らかであり、少年が、仮退院後の保護観察中遵守すべき犯罪者予防更生法第三四条第二項第一号ないし第三号所定の遵守事項ならびに特別遵守事項とされた「悪友と交際せず家に落着いて堅実な生活を送ること」「定職について真面目に働くこと」に違反したものであることは否定すべくもないところである。

そこでさらに、少年に対する今後の育成方策について考えてみるに、上記のごとく仮退院中の観察成績は極めて不良であり、仮退院後、塗装の仕事に自信を持ち始めながら、不況の影響もあつて仕事がなくなり、人夫仕事に移ると早くも崩れ始めて徒遊に堕落し、父母に金をせびり、受け入れられないと暴力的言動に出るまでに至つており、その寄生的生活態度は少年の生活史、前歴からみて、相当固着しているものと考えられ、自主的改善意欲は殆んど認められず、知能は普通域にありながら幼稚な情意状態のまま立ち遅れており、自己中心的、他罰的で素直に自分の非を認めることのできない状態にあると認められる。一方、保護者らは少年の行状を持て余し、恐怖するまでに至つていて到底その保護能力を期待することはできず、もはや、保護観察の継続によつて少年を自己洞察に導き改善更生させることは困難となつたものといわざるを得ない。

よつて、本件申請はこれを認容すべきものとし、犯罪者予防更生法第四三条第一項、少年審判規則第五五条、第三七条第一項後段、少年院法第二条に則り、主文のとおり決定する。

(裁判官 金末和雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例